イントロダクション
一般社団法人フリーランス協会様が毎年11月1日に開催するフェス「Independent Power Fes 2026」にて、展示企画「甲と乙展」を実施しました。
この企画の始まりは、宣伝会議の講座「アートとコピー」です。アートディレクター/デザイナーの奥村が参加し、講座内でペアを組んだ、面白法人カヤックのプランナー/コピーライター・大久保さんとの課題制作から企画が生まれ、フリーランス協会様へ実施を提案しました。フェス会場のブースを一つお借りする形で、協会様主催のもと、大久保さんと二人で企画・制作を手がけ、展示として実現しました。
契約書の歴史は紀元前まで遡ります。2200年以上の時を経て、媒体は石から紙へと姿を変えてきたのに、「読みづらい」「怖い」というネガティブな印象だけは、今も変わっていません。この展示は、その契約書をデザインの力で読みやすく、ポジティブなものに変えられないか、という問いから生まれました。
課題・背景
- 「読みづらい・怖い」という契約書のネガティブな印象を、デザインとコピーの力でポジティブな体験に変えること
- フリーランス法の周知という堅いテーマを、展示で立ち止まって読める表現に翻訳すること
アプローチ
- 法律の解説ではなく、実話をイラストとユーモアで物語化することで、他人事だった契約トラブルを「自分にも起こること」として記憶に残す設計にした
- 読む展示で終わらせず、翻訳・投票・間違い探しといった参加の仕掛けを重ね、来場者が契約を自分ごととして考え始める体験を構成した
クライアントについて
一般社団法人フリーランス協会は、フリーランスや副業人材の活動を支える日本最大級の非営利団体です。保険や福利厚生の提供から政策提言まで、フリーランスが安心して働ける環境づくりに取り組んでいます。本展示は、2024年に施行されたフリーランス法の周知を、セミナーや資料配布ではなく「展示体験」として届けるという、協会にとっても新しい挑戦でした。
Point 1|講座の課題を、実施まで持っていく
この企画は、講座内の課題制作として生まれました。そこから実現できる座組みを探し、民間企業などいくつもの組み先を検討した上で、一般社団法人フリーランス協会さんにご提案しました。フリーランス法の周知という協会さんの取り組みと企画の趣旨が重なり、実施が決まりました。
持ち込みの企画にもかかわらず、趣旨を深く理解し、フェスの貴重なブースまで提供してくださった協会さんには感謝しかありません。企画から実施まで、たくさんの方の理解に支えられたプロジェクトです。
Point 2|告発ではなく、「あるある」として笑えるトーンに
口頭発注の反故、終わらない修正、納品後の報酬カット。題材はどれも、フリーランスなら背筋が冷たくなる実話です。しかし被害の告発として展示すれば、来場者は目を逸らします。
そこで、発注者が実際に言いそうな一言(「え?そんな高い金額で頼んだ覚えはないよ?」)をリードに置き、150字前後の物語として読める温度に設計しました。法律解説は「\ 泣かないための2ヶ条 /」として行動ベースの2行に絞り込み、弁護士監修の指摘をコピーに反映する調整も行いながら、法的な正確さと読みやすさを両立させています。
Point 3|契約書を、ギャル語に翻訳してみる
展示の目的は、契約書の「捉え方」そのものを変える試みです。
そう感じられた場面が、契約書のギャル語・おじさん構文への翻訳でした。法的な文面を、思わず笑ってしまう言葉に置き換える。ふざけているようで、やっていることは真剣です。同じ内容でも、言葉の衣装を替えるだけで、読みたくなくなる文章は読みたくなる文章に変わる。契約書のネガティブな印象は、内容ではなく見せ方の問題かもしれない。その仮説を、体験として確かめてもらうための展示です。
展示を終えて
会場では、来場者の方からたくさんの声をいただきました。
「私は甲なのか乙なのか」というコピーへの共感。「甲・乙という字面を見るだけでネガティブな印象を受ける、見たくない」という正直な声。私たちが仮説として持っていた「契約書への苦手意識」は、想像以上に多くの人が抱えているものでした。
一方で、ギャル語に翻訳した契約書が本物の横に1枚あるだけで「読みたくなる」という声もいただきました。読まれない文書の代表だった契約書が、デザインの力で読みたくなるものに変わる。契約書のデザイン、そして次の世代の契約書のあり方に、可能性を感じた展示になりました。